産経新聞【夜の正論】
産経新聞 2019年12月掲載

山東昭子参院議長「韓国国会議長から明確な謝罪・撤回なく」

激動の令和元年が終わろうとしているが、今年最も注目された政治家は、女性として2人目の参院議長に就任した山東昭子さんではないだろうか。上皇さまに慰安婦問題への謝罪を求めた韓国の文喜相国会議長との個別面会を拒むなど、毅然とした態度も話題を集めた。「ヘルシーな鳥料理が好き」という山東さんに、焼き鳥を囲みながら今年を振り返ってもらい、参院で停滞している憲法改正議論の行方も聞いた。

山東さんと待ち合わせたのは、東京・祖師谷にある「やきとり家すみれ 祖師ヶ谷大蔵店」。焼き鳥屋といえば煙がもうもうと立ちこめる雑多な印象もあるが、「すみれ」の店内は明るいインテリアに囲まれ、女性同士で楽しめるような空間が広がっている。

「鳥はカロリーが少なくおいしいでしょ。私は、色々なものをちょこちょこ食べるのが好きなの」

山東さんが店のメニューを見ながら、もう目を輝かせている。飾らない性格は、記者との垣根もあっという間に壊す。「私は飲めないけど、飲む人をもてなすの。どんどん飲んで」との言葉に甘え、同席した酒巻俊介カメラマンがホッピーを注文した。山東さんが「外」と呼ばれる瓶入りのホッピーを手に取り、にこにこしながら酒巻さんのジョッキに注ぐ。

「三権の長にホッピーを注いでもらうなんて。ましてや私、山東さんがレギュラー出演された『てなもんや三度笠』を生で見た世代ですよ。まさかこんな日が来るとは」

酒巻さんが謙遜しながら盛んにシャッターを切る。場の空気が一気に和んだ。店主がお通しとして、ゆず胡椒風味のたれをまぶした「塩だれキャベツ」を運んでくる。後でお肉をたっぷり楽しんでもらうため、フレッシュなキャベツで胃を整えてもらうためという。

即位礼正殿の儀で「松の間」に

山東さんは7月の参院選で8回目の当選を果たした後、8月には参院議長に就任した。めまぐるしい一年でしたね。

「そうねえ。厳しい選挙の後で、考える暇もなく議長になりました。今年は特に、皇位継承に関する一連の儀式もあり大変でしたが、充実した1年でもありましたね。特に即位礼正殿の儀は、上皇陛下がお元気な中で天皇陛下がご即位されたので、国民にとっても明るい雰囲気のなかで迎えられました」

10月22日に皇居で行われた即位礼正殿の儀で、山東さんは天皇陛下が即位を宣明された松の間に入った。皇族や宮内庁関係者以外で松の間に入ったのは、安倍晋三首相ら三権の長だけでしたよね。

「松の間はシーンとしているの。皇族の方が松の間に向かう衣擦れの音までもがよく聞こえてきました。世界からあれだけたくさんの首脳が参列され、日本の歴史に『感動した』といっていただいた。『さあ見て頂戴』という感じでなく、さりげない形で歴史に触れていただいたのは本当に良かった」

山東さんは、11月14日夜に行われた皇位継承の重要祭祀「大嘗祭(だいじょうさい)」の中心儀式、「大嘗宮の儀」にも参列した。午後6時半から午前3時半までの間、たいまつのかがり火に照らされた秘儀は、どんな様子でしたか。

「参列者は儀式が行われた『悠紀殿』と『主基(すき)殿』から少し離れた屋外テントに案内されました。こちらもシーンとしているのよね。最初の『悠紀殿』の儀式は遠くでまったく様子が分からなかったけど、後半の『主基殿』の儀式では、陛下が建物にお入りになる姿が見えました。雅楽のような演奏も聞こえましたし。たいまつのかがり火しかないのよね」

幻想的な雰囲気が伝わってきますが、11月の屋外は寒いんじゃないですか。

「寒いわよ!暖房なんてないので、私はヒートテックを着込んで膝掛けも用意しました。隣に座った大島理森衆院議長の奥様が寒そうだったので、私の膝掛けを半分かけてあげてね。しゃべるのが商売のような国会議員も一言も発せず、午前3時過ぎに儀式が終わるまで、厳かな時間が流れていました」

店一番の名物「ひなトロ」が登場した。鶏肉のトロとも呼ばれ、脂身のある肩肉「ひなそで」を使っており、ふわっと口の中で溶ける食感が素晴らしい。山東さんが「ジューシーよねえ」と相好を崩す。おいしいものを食べるときは時が少しだけゆっくり流れ、一年の疲れをしばし癒やしてくれる。

韓国議長「あまりにも無礼」
 さて、今日はどうしても聞きたいのが、11月の20カ国・地域(G20)国会議長会議に出席するため来日した韓国の文氏との一件だ。文氏は2月、慰安婦問題をめぐって譲位前の上皇さまを「戦争犯罪の主犯の息子」と呼び、「問題の解決には天皇の謝罪が必要」などと語った。

「過去に韓国大統領が訪日した際の晩餐会で、上皇陛下は『非常に大変悲しい歴史があり…』と発言されました。私はその場で直接ご発言を聞いています。今回の発言は、あまりにも表現が無礼ですよ。多くの国民が怒っています」

山東さんはG20国会議長会議の主催者として、文氏も招待した。招待状を渡すため、公邸に招いた南官杓(ナム・グァンピョ)駐日韓国大使に「文氏がどういう意図でああ言われたのか、ぜひお聞きしたい」と質した。その後、文氏からは返信が届いた。そこには、会議に出席する意向を示し、個別に会いたいという打診も含まれていた。しかし、山東さんが最も聞きたかった点は…。

山東昭子参院議長 来日した韓国議長に意を決し…
東京で1 1月に開かれた主要20カ国・地域(G20)国会議長会議に合わせ、韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長から個別の会談を求められた山東昭子参院議長。山東さんは会談の前提として、上皇さまを「戦争犯罪の主犯の息子」などと語った真意を聞き、 明確な謝罪と発言の撤回が必要だと求めた。文氏からは手紙が届いたが、その中身には…。

「手紙は、公表を前提としていないので具体的にはお話できませんが、『心を痛められた方々』への『お詫び』という趣旨はあったものの、残念ながら、私が期待していた明確な謝罪と発言の撤回はありませんでした」

「文氏は日韓関係に長年尽力された日本側の国会議員と面会した際『どうしてこんなに日本に嫌われたか分からない。(関係をこじらせるような)意識はなかった』と語ったそうです。双方の陛下に対する埋めがたい差があることを感じました。その差を放っておいて、2人でお会いしても意味がない。時間がかかってもいいので、きちんと謝罪と撤回の意思が示されるまで個別に会うことはできないと考えました。そのため、もう1度発言の真意を質す手紙を出したのです」

しかし、その返事は来ないまま、文氏は来日した。国際会議の会議場内や周辺でも、山東さんは文氏と個別の接触は一切せず、この態度は徹底していた。

「私のことを昔から知っているから『日本に来れば何とかなる』と思ったのかもしれませんが、あやふやなまま、なし崩しになってはいけないと思い、意を決して、一切の接触はしませんでした」

厳しいようにみえるが、山東さんは決して「反韓」ではない。これまで、日韓の草の根交流に力を入れてきた自負がある。日韓の女性の民間交流を進めるための「日韓女性親善協会」で中心的な役割を果たし、両国で小中学生の絵画の交流展も開き、両国の学生交流を支援してきた。

「両国の国民同士は仲良くしようと思っているのに、国のトップの一部の心許ない発言が許せない」

ようやく24日、1年3カ月ぶりとなる日韓首脳会談が開かれたが、今後の日韓関係はどうあるべきだと思いますか。

「私は時が解決すると思っています。もちろん外交は政府の専権事項ですが、個人的には、今はこちらから仕掛ける必要はなく、じっと静観すべきですよ。互いに仲良くしなければ損ですが、だからといって、今はこちらから『いかがですか』とする必要もないんじゃないかしら」

筋は通さなければ真の友好関係は結べないー。山東さんの政治家としての強い信念がにじむ。

令和の新時代にこそ憲法議論を
テーブルには、大ぶりな鶏もも肉を使った「ねぎま」や小さなハンバーグほどもあるつくねが次々と登場した。使う大山どりは、「平飼い」と呼ばれる手法でストレスなく育てられただけに、肉にはコクのある甘みが凝縮されている。

今日は、立法府の長として、ぜひ憲法改正の議論も聞きたい。参院議長として事実上の初陣となった先の臨時国会では、憲法を議論をする場となる参院憲法審査会で、実質的な審議は1度も開かれなかった。各党の主張はさておき、議員が国会で、国の最高法規たる憲法の議論すらしないのは異常ではないですか。

「令和となった新しい時代の国会です。国政の全般で活発な議論を期待していました。これは憲法審も含めてです」

山東さんが箸を止め、表清を変えた。

「一部の国会議員には、憲法は『安倍晋三首相が作る』とか、『自民党が作る』という感覚があるのではないかしら。憲法改正案は国会議員が発議し、最終的には国民が決めるものです。憲法改正は百家争鳴、色々な考えがあるからこそ、自由活発に議論をし、日本人として憲法がどうあるべきか国民に考えてもらう機会を設けてほしかったですね」

参院憲法審では、与野党が憲法議論を戦わせる「自由討議」がもう1年10カ月も開かれていない。山東さんは、議員は大型の国政選挙が近づくと憲法議論を遠ざける風潮があると指摘する。永田町は次の衆院選の話題で持ちきりだが、山東さんは、参院憲法審で地に足を付けた、しっかりとした議論がなされることを願っている。

「かつて自民党で憲法改正議論に携わったとき、『どの年齢層に(改憲文案のレベルを)合わせるのか』と提案したことがあります。個人的には難解なものでなく、中学生クラスが納得できる文案がいい。令和の時代に、国を思い、子供たちのためにどういう国家を作っていくのか分かるような憲法であってほしいから。そういう意味では、今年亡くなった中曽根康弘元首相の改憲案の前文が分かりやすかったですね」

中曽根氏が主宰する「世界平和研究所」が平成17年に発表した「憲法改正試案」の前文は「我ら日本国民は、アジアの東、太平洋の波洗う美しい北東アジアの島々に歴代相承け、天皇を国民統合の象徴として戴き、独自の文化と固有の民族生活を形成し発展してきた」から始まる。

「もちろん、それだけが正解ではありません。色々な意見がある。変えない方がいいという意見だってもちろんある。だからこそ、国会議員が意見をぶつけ合い、国民にその議論を示していく。それが議会として大切でないかと考えています」

ネイル外交
ところで、山東さんの隠れた趣味はネイルアート。いつも2時間かけてネイリストに仕上げてもらっているという。この日は師走らしく、ポインセチアとクリスマスツリーが両手の親爪を飾っていた。

「実はネイルを使って、私にしかできない外交をやっているのよ」

山東さんがいたずらっ子のような笑顔をみせる。ネイル外交?

「参院議長となれば、海外からの賓客に応対する機会も多いでしょ。その時、片方の親爪に日の丸、もう片方に相手国の国旗を描いて握手するの。相手は驚き、そこから話がはずむじゃない」

山東さんにはこういうお茶目な面がある。一日に何組も海外の賓客と会う際は「チップ」という貼り替え用の爪を使い、それぞれ各国の国旗をあしらったネイルを用意するそうだ。

政治家は人間力が大切
「ふ一つ、温まる」といいながら、締めの鳥スープをすする山東さん。来年は自民党内で「ポスト安倍」に向けた動きも本格化しそうですが、来年の政局をどう見ますか。かつて、政界に入るきっかけを作ったのが田中角栄元首相と伺ったことがありますが、ああいうカリスマ性を持った政治家って少ないですよね。

「角栄さんのすごいところは人心掌握術ですよ。人に愛される政治家が、最後に残ります。最近の若い政治家は、ネット社会を勘違いして、SNSで情報発信していれば生き残れるように思っている人もいるようですが、それだけで選挙民の心をつかめるとは思いません。ましてや、国のトップを目指すなら、人と太い信頼関係を築くことができる『人間力』が一番大事です。そういう意味では、首相候補に名が上がる◯◯地方の人はちょっと…」

「◯◯」とはどの地方なのかー。これは私だけのお年玉とさせてもらおう。

来年は、参院の一層のバリアフリー化だけでなく、委員会審議のペーパレス化も進めたいと語る山東さん。次々と大きな仕事に挑む考えだが、そんな姿を微塵の感じさせず「今晩は阿部寛さんのドラマを見るの」とニコニコ帰路につく姿はチャーミングなのだ。

ホッピーを注ぐ山東昭子参院議長=東京・祖師谷の「やきとり家すみれ 祖師谷大蔵店」(酒巻俊介撮影)

山東昭子参院議長のネイルアートはクリスマス=東京・祖師谷の「やきとり家すみれ 祖師谷大蔵店」 (酒巻俊介撮影)